DACS 抑うつや不安を引き起こす自動思考を測定

DACS 抑うつや不安を引き起こす自動思考
著者
  福井 至  (東京家政大学/大学院教授)
  坂野雄二  (北海道医療大学心理学部/大学院心理科学研究科教授)
   DACS マニュアル   DACS 記入方法  

    DACS(Depression and Anxiety Cognition Scale)(福井, 1998)は、抑うつや不安を引き起こす自動思考を測定するための質問紙である。自動思考とは、自分の意思とは関係なく、頭の中に自動的に何度も繰り返し出てきてしまう考え方である。例えば、抑うつを引き起こす「将来いいことがないだろう」といった将来に希望がないとする考えとか、不安を引き起こす「この先うまくいかない人間関係に悩まされるだろう」といった将来の脅威状況を予測する考えなどのことである。

「抑うつと不安の認知行動モデル」使った「症例の概念化」の例

    この自動思考と、自動思考を引き起こすスキーマという認知を変容する認知的技法や、各種の行動的技法を用いて不適応な感情や生理反応を適応的なものに改善するのが認知療法である。認知療法は、ペンシルバニア大学医学部の精神科教授のベック(Beck, A. T.)博士によって開発された心理療法である。この認知療法は、認知行動療法の中心的な心理療法であり、その治療効果の高さから1980年代から世界的に広まってきている。また、我が国でも近年多数の認知療法の解説書が出版され、幅広く受け入れられてきている(Beck, 1976; Beck et al.,1979;井上, 1992;坂野, 1995; 大野・小谷津, 1996;岩本・大野・坂野, 1997など)。

    ところでこの認知療法においては、クライエント自身が強いネガティブな感情を感じたときの自動思考を記録することによって、問題となる自動思考を発見していくのが一般的な方法である。しかし、抑うつや不安が問題となる場合の一般的な自動思考を測定する質問紙があれば、クライエントの問題となる自動思考はより早く発見することが出来る。そのための質問紙が、このDACSである。

    また、DACSと「否定的な自動思考カード」があれば、抑うつや不安が問題となっているクライエントへの認知療法の実施が容易になり、初心者でも一定レベルの認知療法を実施することが出来る。さらに、インテーク時とカウンセリングの終結時にDACSを実施すれば、認知療法の効果の判定にも役立つ。このように、抑うつや不安が問題となるクライエントの場合には、DACSの利用範囲は広いので、是非試みていただきたい。