JIBT-R 不合理な信念の中核的な要素を測定

JIBT-R 不合理な信念の中核的な要素
著者
  福井 至  (東京家政大学/大学院教授)
   JIBT-Rマニュアル   JIBT-R記入方法  

    JIBT-R(Japanese Irrational Belief Test-Revised)(福井, 2003)は、不合理な信念の中核的な要素を測定するための質問紙である。不合理な信念の中核要素とは、その信念があると適切な感情反応ではなく、過剰で不適切な感情反応を起こしてしまう考え方のことである。

    例えば、現実には出会う人すべての人に好かれている人はいないので、「私はできるだけ多くの人に好かれるにこしたことはないが、嫌われることもあるかもしれない、そのときはまあ仲のいい人とやっていこう」と考えるのが合理的である。しかし、現実を無視して「私はすべての人に好かれなければならない」と不合理に考えていると問題が起きる。つまり、誰かに嫌われたときに、落胆し、悲しみ、悩むといった適切な感情反応ではなく、抑うつ、不安、激怒、自己憎悪、自己価値喪失感といった過剰で不適切な感情反応となってしまうのである。

    このような不合理な信念を修正して、適切な感情や行動をもたらすのが論理情動行動療法(論理療法)である。論理情動行動療法は、エリス(Ellis, A.)博士によって開発された心理療法である。この論理情動行動療法は、ベック (Beck, A. T.)博士の認知療法とともに認知行動療法の発展の基礎となり、世界的に広まった心理療法である。また、我が国でも以下のように、論理情動行動療法の解説書が出版されて幅広く受け入れられてきている。

Ellis, A. 1973 Humanistic Psychotherapy : The Rational Emotive Approach.
〔邦訳〕 沢田慶輔・橋口英俊訳 (1983) 「人間性主義心理療法」 サイエンス社.

Ellis, A. 1994 Reason and Emotion in Psychotherapy. Revised and Updated. New York: Institute for Rational-Emotive Therapy.
〔邦訳〕野口京子訳 (1999) 「理性感情行動療法」 金子書房

Ellis, A. & Harper, R. A. 1975 A new guide to rational living. New Jersey: Prentice Hall.
〔邦訳〕北見芳雄監訳 (1981) 「論理療法」 川島書店

國分康孝編 1999 「論理療法の理論と実際」 誠心書房

Yankura, J. & Dryden, W. 1994 Albert Ellis. London: SAGE Publication Ltd. 
〔邦訳〕 國分康孝・國分久子監訳 (1998) 「(アルバート・エリス)人と業績 論理療法の誕生とその展開」 川島書店

    ところでこの論理情動行動療法においては、クライエントの現実場面における考えや感情、および行動の記録などから、問題となる不合理な信念を発見していくのが一般的な方法である。しかし、一般的な不合理な信念の中核要素を測定する質問紙があれば、クライエントの問題となる不合理な信念はより早く発見することが出来る。そのための質問紙が、このJIBT-Rである。

    また、JIBT-Rと不合理な信念カードがあれば、論理情動行動療法の実施が容易になり、初心者でも一定レベルの論情動行動療法を実施することが出来る。さらに、インテーク時とカウンセリングの終結時にJIBT-Rを実施すれば、論理情動行動療法の効果の判定にも役立つ。このように、論理情動行動療法の実施において、JIBT-Rの利用範囲は広いので、是非ご使用いただきたい。