GSES 一般性セルフ・エフィカシー(自己効力感)尺度

産業カウンセリング場面はもちろん、うつ病の治療、職場でのストレス低減、看護場面における看護教育やヘルス・プロモーション行動、教育場面での社会的スキル訓練など、幅広い分野で一般性セルフ・エフィカシー(自己効力感)の測定意義が高まっています。

自己効力感を測定する質問紙GSES 一般性セルフ・エフィカシー尺度
著者
  坂野雄二  (北海道医療大学教授) 坂野先生の研究室
  東條光彦  (岡山大学准教授)
  福井 至  (東京家政大学/大学院教授)
  小松智賀  (赤坂クリニック臨床心理士)
  GSESマニュアル

GSES 一般性セルフ・エフィカシー(自己効力感)尺度とは

    一般性 セルフ・エフィカシー(自己効力感) 尺度"General Self-Efficacy Scale ; 以下GSESと略記する" (坂野・東條, 1986) は、個人の一般的なセルフ・エフィカシー認知の高低を測定するための質問紙である。セルフ・エフィカシーとは、何らかの行動をきちんと遂行できるかどうかという予期のことであるが、そういった予期の一般的な傾向を測定するために開発されたのがGSESである。

セルフ・エフィカシー(自己効力感)という概念

    このセルフ・エフィカシー(自己効力感)という概念は、スタンフォード大学教授のバンデューラ博士によって提唱された概念である(Bandura, 1977a, 1985) 。バンデューラ博士は、行動療法を認知行動療法に発展させる大きな契機となった社会的学習理論を提唱した学者である(Bandura, 1971a,b) 。また、認知行動療法の主要な技法の1つである、モデリング法を提唱した学者でもある (Bandura, 1971b) 。このバンデューラ博士の社会的学習理論においては、人間の行動を決定する要因として、先行要因、結果要因、認知的要因の3つが考えられており、セルフ・エフィカシーは行動の先行要因の主要な要素となっている。つまり、セルフ・エフィカシーは、人の行動を決定する重要な認知的変数であり、認知行動療法において幅広く測定されており、変容のターゲットとされている変数である。

セルフ・エフィカシー(自己効力感)の重要性

    ところで近年我が国においても、セルフ・エフィカシー(自己効力感)の重要性が、臨床のみならず、教育、産業、予防医学といった幅広い場面で認識され、利用されるようになってきた。これは、セルフ・エフィカシーが、客観的に測定できる行動変容の先行要因であり、変容可能な認知的変数であり、さらにその変容の結果として確実に行動変容が生じるといった特徴があるためである。

広い利用範囲

    以上のように、セルフ・エフィカシーは行動の変容が問題となる幅広い場面において、理論的にも実践的にも非常に有用な認知的変数となっている。このセルフ・エフィカシーのクライエントの一般的な認知的傾向を測定できるのがGSESであり、アセスメントにおいても、効果判定においても利用範囲は広いので、是非ご利用いただきたい。

マニュアルCDより抜粋

2. セルフ・エフィカシーの3次元と一般性セルフ・エフィカシー

~省略~
    ところで、この一般性セルフ・エフィカシーが向上すると、いろいろな行動に対して積極的になれると考えられるがどうであろうか。例えば産業カウンセリングで多く扱われるうつ病は、最近では小中学生にも見られることがあきらかになってきている(佐藤他, 2004)。このうつ病の場合、精神運動抑制という、やる気が出ない、おっくう、気力がわかないというような、行動の積極性が著しく減退した症状がみられる。図2は、このようなうつ病患者の、抑うつ症状と一般性セルフ・エフィカシーの変化を示したものである。

    図2
    あるうつ病患者の
    抑うつ評定点の変化と
    GSES得点の変化
    (坂野, 1989 を改変)
あるうつ病患者の抑うつ評定点の変化とGSES得点の変化

    横軸は何セッション目のカウンセリングかということを示しており、縦軸は左が一般性セルフ・エフィカシー尺度 (GSES) 得点であり得点が高ければ高いほど一般性セルフ・エフィカシーが高いことを示している。また右は抑うつ評定点であり、こちらは得点が高いほどうつ病の程度が重いことを示している。実線の一般性セルフ・エフィカシーは5セッション目から順調に向上しており、それに伴い点線のうつ病の症状は順調に軽くなってきている。つまり、この例でみてもわかるとおり、一般性セルフ・エフィカシーが向上すると、うつ病は治ってきて行動の積極性が改善してくるのである。

    また、一般性セルフ・エフィカシーが十分に高い人の場合には、困難な状況において以下のような特徴がみられることが明らかとなっている (嶋田, 2002) 。

1. 適切な問題解決行動に積極的になれる。
2. 困難な状況でも簡単にはあきらめず努力することができる。
3. 腹痛や不眠などの身体的ストレス反応や、不安や怒りといった心理的ストレス反応を引き起こさない適切なストレス対処行動ができ、かなりストレスフルな状況にも耐えられる。

    つまり、一般性セルフ・エフィカシーが高ければ、ストレスフルな状況に遭遇しても身体的・精神的な健康を損なわず、適切な対処行動や問題解決行動をしていけるのである。