1. 論理情動行動療法(REBT)
論理情動行動療法は、エリス(E11is,A.)によって創始された心理療法である。エリスは、最初は精神分析療法をおこなっていたが、従来のさまざまな知見や技法を見直して、新しい心理療法である論理情動行動療法を提唱した。
論理情動行動療法では、不合理な信念が心理的問題の原因と考えている。例えば、「私はすべての人から好かれなければならない」と考えている中学生を考えてみよう。この人が、すべての人から好かれていると思っているときは何ら問題は起きない。しかし、たとえばAさんから嫌いだと言われたとする。その時、「私はすべての人から好かれなければならないのに、Aさんから嫌われた。もう明日から、学校では楽しい時間は過ごせないだろう」と考えると、憂うつになるだろう。また、「私はすべての人から好かれなければならないのに、Aさんから嫌われた。明日から、Aさんのグループに意地悪をされるのではないか」と考えると不安になる。しかし、世の中で、会う人すべてから好かれている人などいるだろうか。実際には誰でも、好かれる場合もあるし、好かれない場合もあるのが普通だろう。そのため、「私はできるだけ多くの人に好かれるにこしたことはない。しかし、誰でも嫌われるという経験はするし、嫌われたって死ぬわけではない。まあ、仲のいい友達とやっていこう」という考え方が現実に適応しやすい合理的な考え方である。このような、合理的な信念を持っている人が誰かから嫌われたとしても、過剰な憂うつ感や不安感は経験せずにすむであろう。
論理情動行動療法の基本的なカウンセリング過程は、Fig. 1に示したようなABCDE理論にまとめられる。 |
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A(Activating
Event)
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B(Beliefs)
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C(Consequence)
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適応している場合
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出来事
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合理的信念
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適切な感情や行動
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不適応な場合
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出来事
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不合理な信念
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不適切な感情や行動
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↑
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↑
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D(Dispute)
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E(Effect)
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論駁
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適切な感情や行動
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Fig. 1 ABCDE理論
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つまり、適応している場合には、何かの出来事があっても、合理的な信念によって、適切な感情や行動が生じる。この場合には、カウンセラーの介入は不要である。しかし、不適応な場合には、何かの出来事があり、不合理な信念を持っているために、不適切な感情や行動が生じる。この不適応な場合には、不合理な信念に対してカウンセラーが論駁(反論すること)し、合理的な信念に変容することで適切な感情や行動を生じさせるのである。
ところで、不合理な信念にはいろいろな種類があるが、代表的なのは現実を無視して本人が勝手に「・・・でなければならない」と決めているような信念である。また、実際我慢しなければならない事態になれば我慢できるにもかかわらず「・・・は我慢ならない」とか、実際には不都合である程度であるのに「・・・ではやっていけない。」など、事態の評価が過度にひどく評価されているような信念も代表例である。このような信念については、「・・・でなければならない」は「・・・であるに越したことはない」とし、「・・・は我慢ならない」や「・・・ではやっていけない」などは「・・・は不都合だ」というように変えると、合理的な信念となる。そのほか不合理な信念を合理的な信念に変える方法にはいろいろなやり方があるが、不合理な信念を否定形にしただけでは合理的な信念とはならない。例えば、「私は全ての人に好かれなければならない」を「私は全ての人に好かれなくてよい」と変えても、長期的に自分の人生にとって損な信念を持つことになる。エリスは短期的にも長期的にもあまり損をしないで済む信念を合理的としているのである。
また、論理情動行動療法では、不合理な信念を合理的な信念に変えるといった認知的技法だけではなく、行動的技法も用いている。一例を示すと、不安障害の人のなかには知らない人のいる場所で食事をすると自分が見られているような気がして強い不安を感じ、レストランなどで食事をすることができなくなっている人がいる。そのような人の場合には、キューカード法といって「他の人は私のことなど気にしていない」というような合理的な信念を書いた手のひら大のカードを持ち、実際にレストランに行って食事をしてもらう。そして、自分が見られているような気がして不安が高くなったら、キューカードを見て合理的な信念を心の中で繰り返し不安を低減させながら、レストランで安心して食事ができるようになるまで慣れていくのである。これは、合理的な信念を心の中で言うという自己教示を、行動的カウンセリングのエクスポージャー法につけ加えた方法と考えられる。
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